東大寺といえば大仏が有名ですが、三月堂と呼ばれるお堂にどんな仏像があるか、ご存じではない方も多いのではないでしょうか。
三月堂のご本尊は、不空羂索観音菩薩立像です。その周りには、ご本尊をお守りするかのように9体の仏像が安置されています。
豊かな表情と力強さ、美しさを兼ね備えたそのお姿は、まさに天平彫刻の傑作と呼ぶにふさわしいものです。
この記事では、三月堂に安置されている仏像の特徴やその魅力に迫ってみたいと思います。
大仏だけじゃない。三月堂やお水取り、秘仏公開など東大寺の魅力が詰まった一冊↓
隔週刊 古寺行こう(3) 東大寺 2022年 4/12 号 [雑誌]
神聖な雰囲気が漂う仏像の特徴や歴史
各仏像の名称と技法を紹介!
名称 | 高さ | 彫像制作の技法 |
①本尊・不空羂索観音菩薩立像 | 362.0cm | 乾漆造 |
②梵天 | 402.0cm | 乾漆造 |
③帝釈天 | 403.0cm | 乾漆造 |
④金剛力士像(吽形) | 306.0cm | 乾漆造 |
⑤金剛力士像(阿形) | 326.4cm | 乾漆造 |
⑥持国天像(四天王) | 309.0cm | 乾漆造 |
⑦増長天像(四天王) | 300.0cm | 乾漆造 |
⑧広目天像(四天王) | 304.0cm | 乾漆造 |
⑨多聞天像(四天王) | 310.0cm | 乾漆造 |
⑩秘仏・執金剛神立像 | 170.4cm | 塑造 |
技法の詳細
乾漆造 | 麻布や和紙を漆で固めて造る、天平時代を代表する技法です。乾燥させるためには、手間や費用が掛かります。 |
塑造 | 粘土など、可塑性のある素材を用いて作る技法です。 |
ご本尊以外の乾漆造の像は、鑑真入京(天平勝6年)後に造られたものだといわれています。
この時期に、巨費が投じて8体の巨像も造ったのか、詳しくは解明されていません。
乾漆造の仏像は、多くが色あせてしまっており、残念ながら全体像は想像で補完しなければなりません。今でもその表現力には驚かされますが、当時はさらに華やかで美しい姿だったでしょうね。
三月堂の歴史と造像に謎が多いご本尊
三月堂は天平5年(733)に創建され、当初は東大寺寺域にある、金鐘寺という寺の伽藍の一部でした。
早期には羂索堂とも呼ばれていましたが、毎年旧暦3月に法華会が開かれたことにちなんで、法華堂と名付けられました。修二会で有名な二月堂と同じ由来ですね。
向かって左側(正堂・奈良時代)と右側(礼堂・鎌倉時代)で、それぞれ年代が異なっている建物をひとつにした、珍しいお堂となっています。
不空羂索観音菩薩立像は、お堂と同時期である天平初期に造られたとの説が濃厚です。
また、造像理由については諸説ありますが特定には至っておらず、まだまだ多くの謎に包まれています。
少しミステリアスな部分があるのも、魅力のひとつですね。
過去と現在では違う?!各仏像の位置関係
上の図は、三月堂に安置されている仏像の現在の配置です。
以前まで、梵天と帝釈天の位置には伝日光菩薩と伝月光菩薩がいましたが、今は東大寺ミュージアムに移動しています。
正面から見ると多目天と広目天は少々見づらい場所にいるので、がんばって見やすい位置を探してみましょう。
この並びも芸術的で心打たれるものがありますが、創建当時は下記のように、よりご本尊をお守りするような形で配置されていました。
不空羂索観音菩薩立像の台座(八角二重基壇)に、すべての仏像が集結している状態です。
8尊が結集したこの配置は、如意宝珠の力で一切の災難を遠ざけるご利益があるといわれています。
想像しただけでも、魂を揺さぶるような神秘的なパワーを感じるのは私だけでしょうか。いつの日か、この形で拝観してみたいものですね。
まるで天平時代に迷い込んだような堂内の雰囲気
お堂の中は天平の空気が漂っており、明らかに外界とは異なる空間です。
巨大な仏像がこちらを見据えている様は、まるで本当に仏様の世界に足を踏み入れたかのような気持ちになります。
私の場合は、まるで天の裁きを受けているような感覚でした。見る人によっては、優しい仏像だと思う方もいれば、非常に恐れ多い存在だと感じるかもしれません。
長い間、神秘的な雰囲気に浸っている拝観者がたくさんいました。
絶景と奇跡の出会い。写真家三好和義が描く、夢幻の東大寺写真集です。↓
さまざまな悩みから人々を救う仏像・不空羂索観音菩薩立像
ご本尊・不空羂索観音菩薩立像
ご利益 健康長寿・病気治癒・罪障消滅など
別名・鹿皮観音
「不空」とは、人々の願いをかなえて空しい思いをさせないといった意味があり、「羂索」は、捕縛用の縄を指します。
このことから、不空羂索観音菩薩立像は、さまざまな悩みを救済する強力なご利益があります。
3つの目と8本の手を持っています。手と大幹のバランスが見事であり、全体的な美しさが際立った仏像です。
穏やかな表情をしていますが、私個人としては、その奥には厳しさがあるような気がして、あまり長い間眺めていられませんでした。
今の私が厳しさを欲していたからかもしれません。さすがは、救済のご利益がある仏様ですね。
優しさと厳格さに満ちた脇侍たち
金剛力士像(吽形)が持っている武器は金剛杵といい、その力は煩悩をも破砕するといわれています。強面で大変迫力がある仏像です。
不空羂索観音菩薩立像の両脇をお守りしているのは、梵天と帝釈天です。
一見穏やかで神秘的な雰囲気を漂わせていますが、その目は心の奥まで見透かしていそうで、少しドキッとしてしまいます。
一番外側に安置されているのは四天王です。持国天や増長天は戟と呼ばれる武器を持っています。
薄くて見づらくなってはいますが、今でも甲冑の一部などに細やかで美しい装飾が残っているので、ぜひ確かめてみてください。
また、毎年12月6日は東大寺の初代別当を務めた良弁僧正の命日であり、この日に合わせて秘仏・執金剛神立像が公開されます。
御開帳日限定で授与される御朱印もありますので、興味をお持ちの方はぜひ足を運んでみてください。
まとめ
東大寺三月堂に安置された仏像の、歴史的な背景や美しさについて紹介しました。
天平彫刻はその時代特有の表現でありながら、今もなお私たちの心に響く神秘的な技法です。
これらは単なる彫刻に留まらず、芸術と信仰が融合した存在として、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。
ぜひあなたも天平の仏像に会いに、三月堂を訪れてみませんか。
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東大寺法華堂(三月堂)
〒630-8211 奈良市雑司町406-1
TEL:0742-22-5511
ホームページ https://www.todaiji.or.jp/information/hokkedo/
拝観時間:8:30~16:00
入堂料 大人(中学生以上)…600円 小学生…300円
※その他、団体・障がい者割引あり